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【徒然革】
ブライドルレザーの“白い粉”の原因は?

2023.06.19

日常生活の役に立たない、
マニアックな革のうんちく知識を
気ままにつぶやく
「徒然革(つれづれがわ)」

つれづれなるままに日暮らし、
PCに向かひて、
心にうつりゆく革のよしなしごとを
そこはかとなく書きつくれば、
あやしうこそ革狂ほしけれ——

かつて「副店長」の肩書で、数々のマニアックな革のうんちくコラムを担当した古参スタッフが、日常生活の役に立たない、知るだけムダな革や鞄の小ネタを気まぐれにお届けします。

今回は「ブライドルレザーの“白い粉”の原因は」をお送りします。

そもそも「ブライドルレザー」とは?

英国の馬具用革「ブライドルレザー」

一般的にはあまり聞き慣れない名称である「ブライドルレザー(bridle leather)」とは、主に馬具の「頭絡(bridle)」という部分に使用される堅牢な革素材です。よく間違われるのですが、「結婚式の(bridal)革」ではありません。土屋鞄の「ブライドル」シリーズで採用しているものは、ブライドルレザーの本場・イングランドのウォルソール(Walsall)にあるJ&E セジュウィック社というタンナー(皮を鞣す工房)で仕立てられています。

こちらが馬具の「ブライドル」

こちらはハグの「ブライダル」

ちなみに「頭絡(bridle)」とは、銜(はみ)や轡(くつわ)など、馬具の中でも頭から首に装着するものを指す総称です。これらは馬の制御に重要なパーツで非常に大きな負荷がかかるため、乗馬中に決して切れたりしてはいけない部分。そのため、堅牢で耐久性の高さが必要とされると同時に、一定のしなやかさも要求されます。

そこでブライドルレザーには、耐久性を高めながらある程度のしなやかさも出せるよう、タロウ(tallow)というワックスを革の繊維に染み込ませます。これを浸透することで、革の繊維が固く引き締まりながら、使い込むにつれて程良くなじんでくるようになるのです。また、野外で使う馬具は雨にも濡れますが、油脂やロウを大量に染み込ませることで、いくらかの耐水性も獲得することができます。

ちなみに、tallowは元々「食用のために精製した牛脂」を指す言葉ですが、革づくりの際に使われるものは、牛脂をベースにして蜜ロウや魚・植物の油脂などを配合したものです。タンナーごとにその配合のレシピが異なるため、ひと口に「ブライドルレザー」と言っても、さまざまな仕上がりの革が存在します。

"白い粉"は、革に染み込んだタロウ!

さて、ここまでくれば多くの方はもう、"白い粉"の正体が分かったかもしれませんね。そう、その正体は太郎。もとい、タロウです。革の繊維に染み込んだタロウが表面に吹き出てきたものが「ブルーム(bloom)」──"白い粉"の正体なのです。

では、革に染み込んだタロウがなぜ表面に出てきてブルームになるのでしょうか。これは、温度差が原因だと言われています。タロウは常温ではほぼ固形、ロウや固いラードのような状態です。色は白か、白に近いベージュ。この状態では革に染み込みにくいため、タンナーでは湯煎などで溶かし、クリーム状または液状にして革に刷り込みます。時間が経って冷えるとタロウも元の状態に戻り、革の繊維の中で安定するわけです。

ところが、室温の上昇や体温などで革があたためられると、固まっていたタロウが緩くなり、表面に少しずつ染み出してくることがあるのです。そうして表面に染み出たタロウが冷えると再び元の状態に戻り始め、革の中に戻れなかった分だけ表面にブルームとして残ってしまう……というわけです。

具体的にこれがどういうシチュエーションで起こるかといえば……例えば、日中と朝晩で温度差が大きい部屋や、冷暖房をよくかける部屋に保管している場合。財布をボトムスの尻ポケットに入れるなどして体温であたたまる場合、などが真っ先に思いつきます。もちろん、他にもあるでしょう。

「オイルヌメ革」のブルーム

実はこれと同様の現象は、オイルを大量に含んだ皮革素材であればよく起こります。革に含まれたオイルが温度差で革の表面に染み出して、白っぽい皮膜をつくる──土屋鞄でいえば「トーンオイルヌメ」シリーズの「オイルヌメ革」や「ウルバーノ」シリーズの「バケッタ・ミリングレザー」、「ビークル」シリーズの「ヴィンテージワックスレザー」などでも見られる現象です。ブライドルレザーでは、その変化の度合いが大きいために目立つということなんですね。

ちなみにこのブルームは、ウェスなどで丁寧に革に刷り込んであげるとなじんで目立たなくなります。土屋鞄のブライドルレザーの場合は、刷り込むことで磨かれ、豊かなつやをもたらすことになります。

ブルームはどうするのがいい?

さて、こうして生まれるブルームは、ブライドルレザー製品の購入時にすでに出ていることがあります。これは、どのように扱って使うのがいいのでしょうか。

ブルームの扱い方も楽しみに

実は土屋鞄スタッフの間でも、使用する前にブルームを落とす派と、落さないで自然になじませる派、さらには軽~く落として早くなじませる派など分かれており、詰まるところ、「好みで使うのが一番」という玉虫色の解答になります。土屋鞄の「ブライドル」シリーズでは馬毛ブラシが付属しているので、ブルームを落としたい方はこちらをお使いいただくのが良いでしょう。ちなみに私は、さっと軽く落としてから使うという中途半端な立場ですが、何か?

さらにつやつやの光沢へ

そうして、ブライドルレザーを長年じっくりと使い込んでいくと、表面のブルームが磨かれて、琥珀に例えられるような、味わいのある透明な光沢を纏っていきます。同時に、タンニン鞣しの革であるため色味も味わい深く変化し、豊かなエイジング(経年変化)を楽しめるのがこの革の醍醐味。馬具革ならではの堅牢性で、末永くご愛用いただけます。

山添イチ押し「ブライドルレザー」製品

そんな「ブライドルレザー」を採用した土屋鞄の「ブライドル」シリーズの中で、元「副店長」の私が個人的におすすめするのが次の3アイテム。お好みもあると思いますので、ご参考程度にご覧ください。

「ブライドルレザー」を大きな一枚革で贅沢に堪能したい方はこちらを。優雅な長財布も素敵ですが、堅牢な革質を生かしたかっちりとした形が◎。

重厚極まりない質実剛健なつくりが馬具革の頑強さと品格を感じさせる、土屋鞄の手帳の最高峰。贅沢な革使いは、まさに一生モノという感じです。

気難しそう?な「ブライドルレザー」を、日常で気軽に使いたいという方にはこちらがおすすめ。ラフな小物に贅を尽くすのって、粋を感じますよね。

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