2025.1.28
【徒然革】
革を語るメルマガ:
今年の十二支を鞣してみました
日常生活の役に立たない、
マニアックな革のうんちく知識を
気ままにつぶやくメルマガ
「徒然革(つれづれがわ)」
つれづれなるままに日暮らし、
PCに向かひて、
心にうつりゆく革のよしなしごとを
そこはかとなく書きつくれば、
あやしうこそ革狂ほしけれ——
かつて「副店長」の肩書で、数々のマニアックな革のうんちくコラムを担当した古参スタッフが、日常生活の役に立たない、知るだけムダな革や鞄の小ネタを気まぐれにお届けします。
今回の革メルマガでは2025年最初の号として、今年の十二支である「巳」=「ヘビ」の皮革についてお届けいたします。
風邪予防の滋養強壮のために、体が温まる卵酒(有精卵入り)を飲みながらご笑覧ください。
大きな製品をつくるのが難しいヘビ革
ヘビ革は、いわゆるエキゾチックレザー(家畜系以外の動物の革)の中ではワニ革と共に、比較的ポピュラーかつ高級な部類になります。表面はワニ革とはまた違った、比較的細やかでなめらかな鱗で覆われているのが特徴。この鱗は人間の爪や髪の毛、皮膚の角質にも含まれているケラチンが主成分です。
模様の美しいアミメニシキヘビの革
Adobe Stock / domnitsky
そんなヘビ革は、原皮を採るヘビのサイズによってスネーク(1~2m程度)とパイソン(2~4m以上)に分かれます。ただし原皮の幅が狭いとパーツを採りにくいため、胴回りの太い品種が主流。大きなひし形の斑紋が特徴的なアミメニシキヘビ(ダイアモンドパイソン)、インドニシキヘビやビルマニシキヘビ(モラレスパイソン)、赤味を帯びたヒイロニシキヘビ(レッドパイソン)などがよく用いられます。
それでも、牛革と比べれば大きなパーツが取りにくいということで、用途は財布などの革小物類がメイン。大きな鞄の場合は、何匹分もの革をつないでつくらなくてはいけないこともあります。
しなやかで軽やかなイメージのヘビ革
ヘビの皮を鞣す方法は、基本的には牛や豚などの場合とそれほど変わりません。原皮は塩漬けで保存され、石灰で脂肪や肉片を除去し、タンニンやクロムで鞣され、着色や加脂などの仕上げを経て革になります。ただし鱗がある分、各工程にはより繊細さが必要となり、美しいヘビ革を仕立てるには専門的な職人の高い技術が必要です。
また、大きな魅力となっている鱗の配列や模様を生かすため、原皮の採り方(カッティング)がワニ革と同じように2通りに分かれます。一つは腹面を分割して背面を生かす「フロントカット」(腹割り)で、もう一つは逆に背中をカットして腹面を生かす「バックカット」(背割り)。腹部が特徴的なレッドパイソンはバックカットが主ですが、他の種類は個体差や製品のデザインによって選択されるようです。
しなやかさも魅力
画像提供:AETHER
こうして生まれるヘビ革は、しなやかな柔軟性としっとり手になじむソフトな肌触り、そして薄さと軽さが特徴。ワニ革が力強く重厚なイメージとすれば、ヘビ革はしなやかで軽やかな印象です。ベースの革質は丈夫ですが、繊細な鱗を傷めることなく仕立てる必要があり、特にバッグの場合、ワニ革やオーストリッチと同じように、特徴的な模様が上下左右対称になるようレイアウトする必要も。そのため、大きな製品ほど手間がかかり、高価なものになることが多いようです。
東アジアでは伝統的な楽器の素材に
他にもヘビ革はジャケットや靴、装飾用に使われていますが、東アジアではなぜか楽器の素材としてもよく使われています。正確には鞣していない「ヘビ皮」になりますが、薄くて丈夫なため、共鳴材として弦楽器の胴体に張られることが多いようです。
ヘビ皮を張った沖縄の三線
Adobe Stock / 117160
まず思い浮かぶのは、沖縄の「三線(さんしん、通称・蛇皮線)」。これは、やはり胴にヘビ皮を張ってある中国・明代(1368~1644)の楽器、「三弦(サンシェン)」がルーツとされていて、14世紀末ごろに琉球国へ伝わったと想像されています。東アジアには他にもベトナムの「ダン・タム」、ウイグルやウズベキスタンで使われている「ラワープ」など、ヘビ皮を張った同様の弦楽器があって、関連性が気になるところです。
他にヘビ皮をあしらった楽器としては、中国の「二胡」や「革胡」、沖縄の「クーチョー」、タイの「ソードゥアン」などの擦弦楽器が東アジアに散在しています。打楽器ではカンボジアに、打面にヘビ皮を張った太鼓「スコートゥーイ」があるそうですが……ヘビ皮の楽器、どこまで調べてもアジア地域に多いんですね。
ちなみにこれらの楽器に用いられているヘビも、ある程度の面積が必要だということで、東南アジアのパイソン類が主流。沖縄には最大で2mにもなるハブがいますがそれでも小さいらしく、わざわざ東南アジア方面から輸入していたようです。
東アジアでは縁起物の一面も
階段の側面に蛇神の姿が映る「ククルカンの降臨」
Adobe Stock / Florencia
ヘビはその特異な姿形が男性の生殖器になぞらえられ、脱皮を繰り返して成長する様子が「生まれ変わる」「再生する」ように見えること、さらには農業の害獣であるネズミを捕食することから、特に農耕が盛んな地域で古来から豊穣と不死・再生の象徴、神の化身や使いとされ、神聖視されてきました。メキシコのチチェン・イツァ遺跡では、夏至・冬至を迎えるとピラミッドに落ちた影でククルカン(翼のある蛇神)の形が現れることで有名です。
しめ縄はヘビの交合を表わすという説も
Adobe Stock / tomo
日本では、出雲大社(正称:いづもおおやしろ)の龍蛇神や三輪山・大神神社の白蛇を筆頭に、各地にヘビ信仰があります。さらに、ヘビが脱ぎ捨てた抜け殻を財布に忍ばせておくと≪「巳」を入れる=実入りがある≫や≪脱皮を繰り返して成長=財産がどんどん増える≫として、金運のお守りとされてきました。
ヘビの抜け殻を財布に入れると金運が上昇?!
そうしたことから、ヘビ革の財布も金運上昇の縁起物として珍重され、根強い人気があります。縁起にこだわる方は、春財布や一粒万倍日などと合わせて入手するといいかもしれませんね(土屋鞄にはまだありませんが)。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。今回のヘビ革特集、いかがでしたか?
細いためなかなか大きな製品がつくれないヘビ革ですが、かつて約6,000万年前の南米には「ティタノボア」という巨大なヘビが生息していまして、その大きさは何と全長が最大で約15m、胴回りの最大値が直径約1mという途方もないもの。現存していたら1匹で総ヘビ革の「OTONA RANDSEL」がいくつもつくれそうで、夢と鼻の穴が膨らみますね。
といったところで、次号の「徒然革」は、また届いてのお楽しみに。それでは、またお会いしましょう。とっぺんぱらりの、ぷう。
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