明日につなぐための修理 長く使い続ける価値 Vol.2

TIMELESS

明日につなぐための修理

長く使い続ける価値 Vol.2

2024.3.21

「ゼロ」の状態に戻すのではなく、愛着の刻まれた形を保ちながら、使い手と製品のこれからにつながる修理を施せるように──。私たちつくり手にとって「修理」は、ものを長く使いたいと願う、使い手の気持ちに寄り添う大切な手段の一つです。

「時を超えて愛される価値」
をつくり続けるために

ダダダダダッ。西新井工房から聞こえてくる、小気味良くリズムを刻むミシンの音。修理品を受け付けるスタッフや職人は、この工房で働いています。

「製品を使っていくうちに、少しずつ自分の体や生活になじんでいく。人とものとの関係性において、人生に寄り添うものが近くにあることは、幸せなことだと思うんです。かけがえのないその関係が続くようにサポートしていくのが、我々の仕事だと考えています」

そう語るのは、修理部門を束ねる大西俊明。電話やメール、全国の店舗を通じて、修理品がここに集まってきます。

 

修理品の多くは、使用されて5年以上のもの。「修理に出す」ということはきっと、新しいものを望むよりも、愛着を選んだということになります。

だから、買ったばかりの「ゼロ」の状態に戻すのではなく、製品に刻まれた愛着の時間を引き継ぎながら、この先も長く使い続けられる、より良い状態に戻すことを意識しているのだと、大西は続けます。

また、費用感や、一部修理なのか全体修理なのかなど、持ち主によって要望はさまざまなもの。それらに応えられるよう、修理の選択肢を複数用意しているのだと言います。

刻まれた愛着はそのままに
より良い状態に戻す

修理職人の作業場は、受付スタッフと連携しやすい同じフロア内にあります。ここで働く職人は4人。

「経年変化を楽しめる革という素材は、長く使おうと思えば何十年も使えるもの。だから、長年の愛用に対する修理はどうしても出てくる。『修理できるから安心して使ってください』と言ってあげられることが、革製品を扱う我々の責任でもあるのかなと思います」と話すのは、職人歴25年の丸康之です。

 

この日、丸が修理していたのは、20年ほど前に購入された「オルターナ」というシリーズのショルダーバッグ。外側はきれいな状態ですが、長年の使用により内側の生地が破れ、金具が変色していました。

 

多くの修理に対応するため
「ないものはつくる」

今回の修理内容は、内装生地と金具の交換。タグやファスナーなど、そのまま使えるものは極力生かします。一気に糸を抜くと縫い穴が破れてしまうため、革にダメージを与えないようにキリで一目ひと目、糸をすくい上げていきます。

修理品は全てが一点ものだから、慎重に、正確に。丸の手は、一定のリズムで手際良く動いていました。

修理品の「オルターナ」は古いシリーズのため、生地の型が残っていませんでした。丸は、「『ないから修理できない』という答えはない。ないならつくる」と言い、ばらした生地をトレースして型を作成し、生地を裁断。革は使ううちに伸び縮みする素材のため、その分の計算も必要になります。

また、通常と同じようにミシンを掛けるのではなく、ほどいた縫い穴の上から針を落とすために、一目ひと目、はずみ車を手で回して縫っていました。

年季の入った革の状態を見極めながら、仕上げはダメージの少ない手縫いで。糸にロウをまとわせ、ほどけにくくしてから縫っていきます。

丸の作業机には、自分の手の大きさに合わせて自らカスタマイズした道具が並んでいます。修理品を傷つけないように角を丸く潰したハンマーや、柔らかな革を貼り付けたマットなどもありました。

「どこを修理したのかわからないほど奇麗に仕上がっているのが、自分にとっての理想形。最終的には使い手のためだけれど、必ずしもそれだけが理由ではなくて。一つずつ積み上げてきた技術の成果を出せた時ってうれしいじゃないですか。だから、職人という自分への追求みたいな部分もあるんだと思います」

つくって、使って、直して。
次につながる修理を

丸が手掛けた修理品は、修理部門のスタッフや職人が店頭で定期的に開催している「アフターサポートカウンター」に持ち込まれたものでした。

奇麗になった修理品を手にしたお客さまにお話を伺うと、「まるで化粧直しして戻ってきたよう。今日も早速、携えて外出しました」。職人に伝えたいことは?と尋ねると、「製品のデザインやつくり、修理まで含めて、末永く使いたいと思える製品をつくってくれる。新しい製品もまた買いたいと思います」

新しい製品を開発する際には、試作品のサンプルに対して修理職人が「こういう修理が起こりそう」とデザイナーに伝え、改良を加えています。そうやって生まれた製品が修理に戻ってくれば、またフィードバックをする。

長く「使える」だけでなく、ずっと「使いたくなる」ものを目指して。「つくって、使って、直して、新しいものに還元する。それができる環境が整っているのが土屋鞄の強みだから、その流れを大切にしたい」と丸は語ります。

アフターサポートサービスのご案内

修理をはじめ、良い状態を保つためのケアサポートやリユース販売など、製品をできる限り長く愛用いただくためのサービスを用意。職人が店舗に出向く「アフターサポートカウンター」では、修理の相談・受付のほか、糸のほつれといった簡単な修理であればその場で対応しています。

 

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