鞄と革の用語辞典 -つくり-

【一枚革仕立て】
One-sheet leather

鞄の前面や背面などの大きなパーツを、複数の革を接ぎはぎしてつくるのではなく、一枚の繋がった革でつくることを「一枚革仕立て」と呼ぶことがあります。革からパーツを抜き採るには、革に不規則に入っている深い傷痕などを避けなければいけないため、パーツが大きくなるほど採り方が難しくなります。もし大きな傷が革の中央にあったら、大きなパーツは一つも取れないことがあり得るのです。

そのため大きな一枚革を取り入れることは、非常に贅沢なことになります。同じ面積でも、複数の革でつくるより一枚革でつくる方が革のロスが多くなるからです。また一枚革を前面や背面に用いると、同じ革の中でも様々な表情があることがわかり、革の魅力をたっぷりと味わうことができます。

【革漉き】
Shaving, Splitting

バッグや革小物を仕立てる革は布のように薄いイメージがありますが、成牛革の場合、鞣した直後の厚さが実際には3.0~4.0mmにもなることがあります。そこで実際に使う際には、仕様に応じて製作しやすいよう、あらかじめ薄くしておかなければなりません。このように革を薄くする下仕事を、「革漉き(かわすき)」と言っています。

革漉きには、パーツを採る前の大きな革を扱いやすくするために、あらかじめ全体を均一に薄くする「大漉き」と、必要に応じてパーツの端や折り目など、部分的に少しだけ薄くする工程があります。前者では大きな機械に革を入れて漉き、後者では小さな漉き機や革包丁を使って、手作業で行います。表に出ない地味な作業ですが、仕上がりの美しさを高めるには非常に大切な作業です。

【ササマチ】
Side gusset

「ササマチ」は2つ折りのマチの1種。広げると上が広くて、底辺がないか非常に狭くなっており、細い扇のような形になっています。これを取り付けると、横から見たときに笹の葉のようにみえるので、「ササマチ」の名がついたようです。マチの形状の中ではポピュラーなタイプで、鞄や財布の本体、内装ポケットなどのマチによく使われています。

ササマチは底辺が狭いので、収納力はそれほど期待ができません。しかしその分、たたむと薄くなって幅を取らないので、スマートなデザインで厚みを出したくない場合に有効な仕様です。また上辺を広くするほど口が大きく開くようになるので、視認性が増し、出し入れがしやすくなるという利点もあります。

【肉盛り】
Nikumori

パーツ製作で革と革を張り合わせるときに、中に芯材を盛り込んで膨らみをつけ、丸みや立体感を加える手法を「肉盛り」と呼んでいます。鞄ではハンドルや、ハンドルと本体とを接続する付け根部分、そして本体やパーツの縁取りの部分に盛り込まれることが多いようです。芯材には人工素材がよく使われますが、床革や銀付き革も用いられます。

肉盛りは表情に陰影を加えるので引き締まった印象になり、シンプルなデザインの鞄では良いアクセントとなります。この肉盛りの形を出し、美しく仕上げるのは職人の腕の見せどころ。指先やヘラで芯材の角をくっきりとしごき出したり、芯材のエッジのすぐそばにステッチをかけてレリーフのように芯材の形を浮き出させたりと、繊細な技術を要求されます。

【粗裁ち・本裁ち】
Leather cutting

革から鞄や小物のパーツを裁断するときは、革に金型を置いてプレス機にかけ、抜き取ります。この1回の裁断だけで使えるパーツもありますが、細かなパーツやより精度の必要なパーツでは、2段階に分けて裁断を行います。最初の裁断でひと回り大きく抜くことを「粗裁ち」、後でもう一度、手作業で正確な裁断を行うことを「本裁ち」と呼ぶことがあります。

たとえばハンドルをつくる場合。いきなり実際のサイズに裁断すると、パーツの端ギリギリを縫わなければならないためミシンが操作しづらく、失敗も多くなります。そこでまず大きめに粗裁ちをして縫製をやりやすくし、縫い目のすぐ脇から余分な端を裁ち落として実際のサイズに整えるのです。手間が増え、革も余計に必要になりますが、製作精度の向上のために工夫されたやり方です。


次回のテーマは
「細部の技」です。

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