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自然に、時を愛して暮らす日々。

吉田恭一さんと幾未さん。
おふたりの暮らす家が「WIFE&HUSBAND」のお店として新しいスタートを切った時、恭一さんはブログにこう綴っていました。


「もしいつかお店をすることになったら、ウィンドウサインは手描きがいいなと思っていました。古物から美しさを感じる時、それは例えば夕焼けが綺麗だったり新緑が美しかったりする次元の美を、物の中に見出す時でした。それは人の作為では到底届かない次元の美で、人が抗えない経年だからこそ生み出せる美しさでしょう。
子どもの描く絵が美しいのは、作為が無く、他の生き物同様自身の存在がまだ自然の一部だからこそでしょう。では大人がその次元の美を作為的に生み出せるのか?それは作為した裏側に意図せず生まれるものでしょう。


機械のように究極に真っ直ぐな線を手で描こうとした時、どんなにがんばって描いた真っ直ぐな線でも、本意でない微かな手仕事の揺らぎが感じとれます。
この意図の裏側に美は生まれると思います。
だるまに眼を入れるように、美しい文字でお店に命が吹き込まれました。」

ぜひお会いして話を聞いてみたい、この言葉を読んで強く思いました。私たち土屋鞄が目指すのは、人の暮らしに馴染み変化していく、手仕事生まれの革製品。もちろん美味しいコーヒーにも惹かれましたが、それ以上にものやサービスの背景にあるおふたりの美意識や暮らしに、グッと共感し、引き寄せられたのでした。


お店に入ると、そこにはやはり時の流れを感じるものがたくさん。
古いものに魅力を感じるようになったきっかけはなんだったのでしょうか。


「きっかけは14年前に買ったオールドノリタケのコーヒーカップでした。約100年前にイギリス輸出用に作られた商品で、日本からイギリス、アメリカに渡り、僕が買って里帰りしたものなんです。そういうストーリーを感じながら飲むコーヒーはとても贅沢だなと感じました。でも、さらにそこからどんどん古いものの世界に入っていって、単純に年月を経ることで見えてくる美しさに魅かれるようになったんです」


人が手を加えて作ったものも時を経ることによって風化し自然に還っていく。古いものを通してストーリーを味わうところからさらに進んで、流れる時間と混じり合い変化していく姿そのものに、吉田さんは自然美を見いだすようになったのです。


おふたりが身につけているものも、ヴィンテージが多いのだそう。もちろんこの日の幾未さんのお洋服も。「経年の美しさはもちろん、作りも素敵で気に入っています。ガラスボタンや刺繍、すごく丁寧に作ってあって、それに当て布をして直しながら使うのも好きなんですよ。壊れたらすぐ捨てるのではなく可愛がるように長く使っていく方がしっくりくるんです」


その日そのひとときだけでなく、ずっと美しく愛おしい。そう思えるものだけを選んでいく。お話を聞いていく内にだんだんとおふたりの基準が見えてきました。
「あるとき、心が動かされる瞬間には2つの種類があると気付いたんです。ひとつは手品のようなもので、最初は驚くのですが2回目は種を知っているから心が動かない。もうひとつは夕日のような、何度見ても美しくて感動できるもの。この2種類を自分の中で区別して選んでいったら、私たちの場合こうなったんです」


元々おふたりの暮らしの中にあった賀茂川でのピクニックも、そのひとつ。季節ごと、何度でも味わいたくなるその経験を「WIFE&HUSBAND」のメニューに加えました。椅子とテーブル、コーヒーのピクニックセットはお客さんにも大好評で、リピーターも多いのだそうです。
そうしたピクニックやコーヒーを淹れてほっとする時間、店内にあるすっかり小さくなった麦わら帽子にふと目をやる瞬間・・・いつでも心動かされるその時間を、愛しながら暮らす日々。京都、北大路の「WIFE&HUSBAND」は、おふたりの暮らしから自然にできたお店なのでした。


恭一さんと幾未さん、それぞれのInstagramではこうした暮らしのひとコマを垣間見ることができます。投稿は商品に関することよりも、個人として思うことや家族のことがメイン。「WIFE&HUSBAND」として活動する前からアカウントのフォロワーが段々と増え、お店のオープンの際は国内外から多くのファンが訪れてくれたそうです。おふたりに出会って、目に見える、わかりやすい「もの」ではなく、人の「想い」や「暮らし」、目に見えないものに共感することの強さと面白さに改めて気付かされました。

京都に行ったら、ぜひ立ち寄ってみてください。確かにそこには、爽やかな風や夕日のように、心地よく愛しいひとときがありますよ。


WIFE&HUSBAND
京都市北区小山下内河原町106-6
TEL:075-201-7324
営業時間 午前10時より午後5時まで(ピクニック午後3時LO、カフェ午後4時30分LO)
不定営業