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【徒然革】
「そもそも≪タンニン≫って何?」(後編)

2023.05.07

日常生活の役に立たない、
マニアックな革のうんちく知識を
気ままにつぶやく
「徒然革(つれづれがわ)」Vol.2

つれづれなるままに日暮らし、
PCに向かひて、
心にうつりゆく革のよしなしごとを
そこはかとなく書きつくれば、
あやしうこそ革狂ほしけれ——

かつて「副店長」の肩書で、数々のマニアックな革のうんちくコラムを担当した古参スタッフが、日常生活の役に立たない、知るだけムダな革や鞄の小ネタを気まぐれに書き散らかします。

今回は「そもそも≪タンニン≫って何?」の後編です。え、前編、まだ読んでいないんですか?

前編(4/16号)のあらすじ
革の専門用語の中では、比較的よく目にする「タンニン」。調べてみるとそれは、多くの植物に含まれているポリフェノールの一種だった。
元「副店長」のうんちくで「タンニン」が持つ働きが解き明かされる中、関心は、「タンニン」がどのようにして皮を鞣すのに使われるのかに集まり──

 

実際に皮を鞣すとき・・・
「タンニン」をどう使うの?

前編では、皮を鞣す際、「タンニン」が持つ性質の中で収斂(しゅうれん)性と防腐・抗菌作用が主に活躍するということが分かりました。ではタンニンを使って、実際にはどのようにして皮を鞣しているのでしょうか。


 

「タンニン鞣し」の始まりは?

「タンニン鞣し」とは、植物の渋を使って皮を鞣す製法の総称で、その歴史はかなり古く、紀元前の古代エジプト、ギリシャ・ローマの遺跡などからもその痕跡が見つかっているそうです。その基本的な鞣し方の仕組みは現代のやり方とそれほど変わっていないと言われていて、その意味ではまさに伝統製法と言えます。

 


①植物から「タンニン」を抽出


まず、原材料となる植物の皮や種子などを細かく砕いて渋の成分、「タンニン」を抽出します。かつては、渋を多く含む植物の皮や種子などをチップにしてそのまま水に漬け、「タンニン」を水に染み出させていました。しかし、あまりに時間と手間がかかること、他の物質も出てきてしまうことから、ごく一部のタンナー(革を鞣す工房)を除いて、抽出した「タンニン」剤を使用しています。

なお現代では、植物の「タンニン」と同様の作用を持つ化学薬品「合成タンニン」もよく使われており、適宜使い分けているタンナーも増えています。

 

担任(イメージ)。生徒に人気そう。

②複数の「タンニン」をブレンド

採取する植物ごとに「タンニン」の種類・作用が異なるので、つくりたい革の特徴に合わせて何種類かをブレンドして使うことが普通です。この配合比率はタンナー(皮鞣し工房)ごとに独自のレシピを持っているので、ひと口に「ヌメ革」と言っていても、実際にはタンナーごとに少しずつ性質の異なる「ヌメ革」ができます。

また原材料が植物ということで、生育した地域や採取した時季、そして個体差によっても性質が微妙に変化。そのため、同じタンナーでも毎回全く同じように仕上がるとは限らないところが面白いところです。

ドラム(左)とピット(右)

a)ドラム(太鼓)
現在主流となっている方法。「ドラム」「太鼓」と呼ばれる大きな回転容器に原皮とタンニンの水溶液を入れて撹拌することで、原皮の線維に「タンニン」を効率良く浸透させます。

b)ピット
鞣し液を張った大きな水槽(ピット)に原皮を漬け込む方法。いきなり濃い溶液に漬け込んでも浸透しにくいため、薄い濃度から段階的に濃い鞣し液に浸け替えないといけません。ドラム鞣しより時間がかかりますが、非常に頑強で引き締まった革ができます。

④仕上げ
「鞣し」そのものは、以上で終了。その後は乾燥や加脂、着色などの加工・仕上げを経て、鞄や靴などに使える「革」が出来上がります。

 

③原皮に「タンニン」を浸み込ませる


ブレンドした「タンニン」剤を水に溶かして鞣し液をつくり、脱毛などの下処理を済ませた原皮に浸透させます。これが「タンニン鞣し」です。「タンニン」が皮の繊維の隅々までしっかりと行き渡ることにより、腐りにくく、丈夫で長く使える素材「革」に生まれ変わります。

ちなみに、この「タンニン」を皮に浸透させる方法には大きく分けて「ドラム」と「ピット」の2タイプがあり、鞣しにかかる時間や手間、そしてできる革の性質に若干の違いがあります。

 

「タンニン鞣し」の革の特徴

「タンニン」を用いて皮を鞣す方法は、概略、以上のような流れです。実際には原皮のコンディションやその日の天候によって、タンニン剤の配合や量、水溶液の濃度や温度を微妙に変える必要があり、熟練の職人による経験や勘が頼りとなります。

こうしてできた「タンニン鞣し」の革には共通の性質がいくつかあり、それが魅力になっています。

①引き締まった、頑強な革質


「タンニン鞣し」で仕立てた革は繊維が密に引き締まるので、頑強な革ができます。ただし、そのままではガチガチになるので、オイルを加えて革にいくらか柔軟さを与えるのが普通です。なお、引き締められた繊維は力が加わることで徐々にほぐれてくるので、「使うほどなじんでくる」という現象が起きてきます。

 

②豊かなエイジング(経年変化)

「プレーンヌメレザー」の経年変化

革に染み込んだ「タンニン」は紫外線や温度などの刺激に反応しやすいため、日焼けや体温の影響を受けて革の色が変わります。これがエイジング(経年変化)の主な原因です。色は、使われた「タンニン」の配合によって黄味がかったり、赤味がかったりします。

③ナチュラルな風合いと多様な表情

血筋(左)、バラキズ(右)

ヌメ革に代表されるように、タンニンで鞣した革はいかにも自然な雰囲気の、柔らかな風合いに仕上がるものが多い傾向にあります。また、それを生かすべく表面の加工を控えることが多いため、革が元々持っている痕跡──シワやバラキズ、血管の痕などが残り、多様な表情を楽しめます。

④可塑性が高い

可塑性を生かして、絞り加工を用いた
「水切り石を運ぶ鞄」。

「タンニン鞣し」の革は可塑性──圧迫や折り曲げのように力が加えられると、痕が残ったり癖がついたりしやすい性質があります。これが「使うほどなじんでくる」「くったりしてくる」理由です。なお、固いヘラで絵柄や模様を刻んでいくレザーエングレイビングにヌメ革が使われるのは、この性質を生かしたものです。

植物の渋を使って、ナチュラルで使う楽しさの詰まった魅力いっぱいの革素材ができるなんて、製法を考えて改良を重ねてきた先人には感謝しきれないですね。

そんな「タンニン鞣し」の革と言えばやはりヌメ革が代表的ですが、実は他にも色々な革があり、ナチュラルな風合いと、使い込むほど味わいが増すことが共通の特徴として挙げられます。土屋鞄では主に、以下のような革が使われています。

土屋鞄で、タンニン鞣しを用いて仕立てられた革を
採用しているコレクションをご紹介

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それでは、また次回をお楽しみに。どんどはれ。