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【徒然革】
革を語るメルマガ:
コバへのこだわり

2025.4.29

日常生活の役に立たない、
マニアックな革のうんちく知識を
気ままにつぶやくメルマガ
「徒然革(つれづれがわ)」

つれづれなるままに日暮らし、
PCに向かひて、
心にうつりゆく革のよしなしごとを
そこはかとなく書きつくれば、
あやしうこそ革狂ほしけれ——

 

かつて「副店長」の肩書で、数々のマニアックな革のうんちくコラムを担当した古参スタッフが、日常生活の役に立たない、知るだけムダな革や鞄の小ネタを気まぐれにお届けします。

 

今回の革メルマガでは、シンプルなデザインに品格を与える細部の仕上げの中でも、土屋鞄がとりわけこだわる「コバの仕上げ」について詳しく解説。

 

ヨモギをたっぷり使った香ばしい草餅を頬張りながら、ごゆるりとご笑覧ください。

そもそも「コバ」とは?

鞄などの皮革製品の世界では、革の切り目、裁断面を「コバ」と呼んでいます。靴の場合は、張り出したソールの断面のことを「コバ」と言いますよね。これらはもともと、木材の裁断面を「木端」(こば)と呼んでいたことにならったものだと思われます。

コバ

革の場合、このコバに何も処理を施さずそのままにしておくと、やがて断面の繊維が次第にほつれて毛羽立ちや割れが生じたり、手垢などで汚れて黒ずんできたりしてしまいます。そこで革製品では、これらを避けるためにコバの処理を行うことが大切になってくるのです。

土屋鞄では、タイムレスに愛用できるシンプルなデザインの製品が多いこともあり、菊寄せネン引きなど、全体の品格を高める細部の仕上げには強いこだわりがあります。コバの処理はその最たるもので、同時に、職人の技術や美意識の高さを示すものともなっています。

コバの処理の仕方

さて、そんなコバの処理には大きく分けて2つの考え方があります。一つは、コバを隠して表に露出しないようにする方法。もう一つが、コバがほつれたり割れたりしないよう強化する方法です。

縁返し

パイピング

袋縫いの合わせ目

前者の例が、薄く漉いた革の縁を折り返して縫い付ける「縁返し」や、リボン状の革をコバにかぶせて縫い付ける「パイピング」。また、袋状に縫い上げたものを表裏ひっくり返すことで、コバの見える縫い合わせ部分を内側に向けてしまう「袋縫い」という製法もあります。いずれもコバを隠すことで輪郭を柔らかく、上品な印象に感じさせる仕立てです。

一方、特にメンズ製品に多いのですが、「切り目仕立て」といってコバを隠さず、むしろその革らしい雰囲気や直線的な印象をデザインや個性として生かすつくりの鞄や小物もあります。そのような場合は、コバ自体に直接処理を施すことでほつれなどを止めることが多いようですね。

透明な目止め剤による切り目磨き

その最も基本的な仕上げが「切り目磨き」です。コバには微妙な凹凸や貼り合わせの段差があるので、まずこれらを丁寧に磨いてなめらかに整えます。ついで、繊維のほつれを防ぐために透明な目止め剤を塗り、乾いてからしっかりと磨き上げて終了です。透明なので断面の表情や革の重なりが見え、ナチュラルでおおらかな雰囲気が楽しめるのがこの仕上げ方の魅力です。

全体の品格を上げる「コバ塗り」

美しいコバ塗り

他方でビジネス製品など、高級感や洗練された印象を重視する製品の場合は、「コバ塗り」が行われます。下処理としてコバを丁寧に磨くところまではほぼ同じですが、そこにふのりではなく、「コバ液」を塗布するのが違い。コバ液はコバの繊維を引き締めながらさまざまに彩るコバ専用の塗料兼仕上げ液で、コバ面の表情を隠しながら美しく仕上げることで、より上品で洗練された印象に仕上がります。

コバ液には色が付いているため、はみ出したり跳ね飛ばしたりすると製品全体が台無しになってしまうことがあります。そのため、塗布作業には繊細な技術と細心の注意が必要で、コバが長いほど職人にとっては気の抜けない作業となります。不器用で注意力が散漫な私には、絶対にできない作業ですね・・・。

コバ液を自社製造までするこだわり

そんなコバ塗りで重要なのが、ほかならぬ「コバ液」自体のクオリティです。塗布する鞄や革小物は毎日のように使うアイテムなので、発色の良さだけでなく、日常の使用に耐えうる堅牢な仕上がりが必須条件。折り曲げてもひびや割れが起きにくく、摩擦による色落ちや温度によるベタ付きも生じにくい塗面をつくれなくてはいけません。

土屋鞄ではそんなコバ液に、長年業界で定評があった豊島化学の「コバオール」を使用してきました。本革にも人工皮革にも使えて、扱いやすく、堅牢で美しい仕上がりを提供してくれるこのコバ液は、土屋鞄の製品には欠かせない名脇役でした。

ところが2016年に、製造元の豊島化学が廃業することに。長年使い慣れた「コバオール」がなくなることを惜しんだ土屋鞄は、引き続き自社製品に使用できるようにするため、翌2017年にその事業を継承。自社で製造する決意を固めました。

それから7年もの間、土屋鞄は社内で鞄職人たちへのヒアリングを重ね、各種の物性試験を繰り返して耐屈曲性・耐摩耗性・耐熱性の向上に注力。また色差計を用いて色の要素を数値化し、色の再現性を高めることで製造ロットによる色ブレを極力減らすなど、「コバオール」の品質と使いやすさをブラッシュアップしながら、自社製品に採用し続けてきたのです。

細部の仕上げにも妥協を許さないものづくりへの姿勢から、土屋鞄はコバ液を自社製造するという挑戦に踏み切り、ブラッシュアップし続けることで製品全体のクオリティを向上させてきました。もし、コバ塗りが施されている土屋鞄のアイテムをお持ちでしたら、こうしたディテールへの執念を感じていただけますと嬉しいです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。今回のコバ特集、いかがでしたか?

今号をお読みになって、土屋鞄の製品に、コバを生かしたデザインが多いことにお気付きになられた方も多いのではないでしょうか。私たちが工房に取材に行ったときにちょうどコバ塗り作業をしている最中だったりすると、普段にこやかな職人でも張り詰めた空気が漂っていて、とても気を遣いますね。

といったところで、次号の「徒然革」は、また届いてのお楽しみに。それでは、またお会いしましょう。とっぺんぱらりの、ぷう。


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