鞄と革の用語辞典 -革の個性-

【シボ(皺・萎)】
Grain

「シボ」とは、革をしぼませたような表面の細かい立体的なシワ模様のこと。手もみや空打ち(回転ドラムの中に革を入れてもみくちゃにし、細かなシワ模様をつける加工)、または薬品で革を収縮させる加工(シュリンク加工)のときに形成されます。ただしオーストリッチ(ダチョウ)の革では、シワではなく、羽毛を抜いて盛り上がった毛穴の痕を例外的にシボと呼んでいます。

シボの大きさは革の線維の密度や締まり具合などによって変わってくるため、一枚の革の中でも部位によって出方が異なります。特に首から肩にかけてや腹周りの部位においては、密度の変化が激しいため、さまざまなシボが見られます。当然、個体差も大きいため、シボはそれぞれの革に個性豊かな表情を生み出す大きな要因。そうした意味で、革らしい特徴の一つと言えるでしょう。

【染めムラ】
Uneven dyeing

動物の皮膚を原料としてつくられる革は、人工素材と違い、全体が均質なものにはなりません。一枚一枚の革の間はもとより、革の中でも部位によって、線維の太さや長さ・密度・線維自体の性質などがまちまちです。そのため、革を染色するとさまざまな濃淡が現れ、これが「染めムラ」です。

革が均質でない以上、全体が一様に染まることはまずありません。しかも部位によってきれいに分かれるわけではなく、大理石にように濃淡がランダムに入り混じります。つまり全く同じ染めムラを持つ革はなく、染めムラが革の表情を個性的にしていると言ってもよいでしょう。

【血筋】
Veins

鞄の素材の中で革にしか見られないものといえば、何と言っても「血筋(ちすじ)」です。これは、皮膚の下を走っていた血管の痕が革に残ったもの。銀面にうっすらと見えるものと、床面の線維層に現れるものがありますが、どちらも葉脈や稲妻のような模様となります。ヌメ革のように素仕上げに近いナチュラルな風合いの革では、表からも裏からもはっきりと確認できます。

血筋は革につきもの。クオリティや美観を大きく損なう場合以外は、革の表情として自然に取り入れられており、革の歴史の深い欧米では革の個性として認知されています。また、血筋は天然皮革にしかない模様ですので、これがあることはまさに本革の証なのです。

【トラ】
Wrinkles, Creases

天然素材である革には、もとの動物が持っていた身体的な特徴が色濃く反映されます。例えば、原皮にあった大きなシワやたるみを平らにするためにならした場合。シワの山と谷の部分では革質に差があるため、染色にムラが生じてしま状の模様ができたり、長い筋が残ったります。その様子がまるで虎のしま模様のように見えるため、これらを「トラ」と呼んでいます。

トラは、皮膚の伸び縮みの激しいショルダー(肩の部位)から採った革によく見られる、ごく一般的な模様。トラの入った革は鞄などにも採り入れられ、革の表情を豊かにする自然の刻印として親しまれています。

【バラ傷】
Scars, Scratches

外で飼われている牛や豚の皮膚には、藪や柵で引っ掻いたり、ケンカしたりして、多くの傷がついています。これらの傷痕が革に残ったものが「バラ傷」です。人工素材には見られないものなので、バラ傷の存在が本革であることを教えてくれます。特に草原で放牧する北米・南米産の原皮にはバラ傷が多く、サボテンのトゲが刺さった痕など、独特のものも存在します。

バラ傷はランダムに散らばっているので、逐一避けてしまうとごく小さなパーツしかつくれなくなります。そのため強度的に問題がなく、美観を大きく損ねない限りは、目立たないよう柔軟に取り入れられることが多々。ナチュラルな風合いの革では個性的で野趣溢れる表情を生み出します。

【ピンホール】
Pinholes

動物には体毛が生えているため、脱毛後の原皮には毛穴や毛根が無数に存在します。これらは、革の収縮や型押し・シワ付けなどの表面加工、顔料による着色などによって目立たなくなることがほとんど。ただし、部位や個体差、または動物の種類によっては残ることがあり、「ピンホール」と呼ばれます。

特にヌメ革のように染色だけで表面加工をほとんどしない革の場合は、毛穴や毛根の痕跡が自然の表情としてしばしば確認できます。また豚や山羊、ダチョウなどの革では特有の毛穴が全体に散らばり、個性的な模様となって人気を博しています。土屋鞄で使用するコードバンでも「水染めコードバン」のようなナチュラル仕上げのものには、しばしば見られます。



次回のテーマは
「革の性質」です。

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