Plain Note 山下貴嗣さん Page1 / 3

Plain Note ―想いの自由帳―

「Minimal-Bean to Bar Chocolate-」代表
山下貴嗣さん | Page1 / 3

皆さんは、どこかで“Bean to Bar Chocolate”という言葉を耳にしたことはありませんか。実は近年、この“Bean to Bar”という製法でつくられるこだわりのクラフトチョコレートが世界で注目されており、日本でも人気が高まってきているのです。その日本での先駆者にして第一人者が、今回ご紹介する「Minimal-Bean to Bar Chocolate-」代表の山下貴嗣さんです。

山下さんは、弱冠29歳にして、コンサルタント業から全く別のフィールドであるクラフトチョコレートづくりの世界に飛び込んだという、驚きの経歴の持ち主。そこにはいったいどのような思いと、ストーリーがあったのでしょうか。

和食の発想で生まれる、
「引き算」のチョコレート

――まず初めに、“Bean to Bar Chocolate”がどのようなものであるか、聞かせていただけますか。

私たち「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」は、その名の通り、“Bean to Bar”という方式でチョコレートをつくっている会社です。これは、原料のカカオ豆(Bean)が板チョコ(Bar)に仕上がるまでの全工程(選別・焙煎・磨砕・調合・成形)を、自社で一貫管理するやり方です。既存のチョコレートづくりでは、製造の各工程をさまざまな専門企業に割り振る分業が前提でしたが、“Bean to Bar”ではそれを一本化することによって品質をコントロールしやすくし、こだわりを貫けるようにしています。

私たち「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」は、その名の通り、“Bean to Bar”という方式でチョコレートをつくっている会社です。これは、原料のカカオ豆(Bean)が板チョコ(Bar)に仕上がるまでの全工程(選別・焙煎・磨砕・調合・成形)を、自社で一貫管理するやり方です。既存のチョコレートづくりでは、製造の各工程をさまざまな専門企業に割り振る分業が前提でしたが、“Bean to Bar”ではそれを一本化することによって品質をコントロールしやすくし、こだわりを貫けるようにしています。

Minimal - 富ヶ谷本店

Minimal - 富ヶ谷本店

――その“Bean to Bar”というやり方で山下さんが追求していきたいこだわりは、どのようなものですか。

私がつくりたいのは、原料であるカカオ豆本来の味わいと香り高さを引き出すことに徹底的にこだわる、全く新しいクラフトチョコレートです。そのために余計なものを可能な限りそぎ落として、「カカオ豆と砂糖だけ」という必要最小限の原料だけに絞り込みました。乳化剤や着色料・保存料などの添加物はもちろん、余分な油脂やミルクなども加えていません。

また、カカオ豆の個性を最大限に楽しんでいただけるよう研究を重ね、豆ごとに粒の大きさを調整したり、焙煎の時間・温度を1分1度から調整したりなど、細部まで吟味しています。このように、原料からつくり方の細かいところに至るまで自分たちのこだわりを貫けるのは、“Bean to Bar”だからこそですね。

――なるほど。素材の良さを生かしたチョコレートづくりをしよう、という発想は、どこから出てきたのですか。

実は前職を辞めたときから、日本にしかできない「ものづくり」の仕事で、新しい価値を世の中に提案できないかと、ずっと考えていたんです。例えば、旬や季節によって移ろうちょっとした違いを楽しむような、きめ細やかな美意識を生かしたものづくりです。 そのなかでも、日本ならではの発想として面白いと思っていたのが、和食に代表される「引き算」の発想でした。素材に可能な限り余計なものを足さず、削り込んでいくことで本質を研ぎ澄まし、個性と魅力を引き出していく。そうしたものづくりが、したかったんです。

日本にしかできない
「ものづくり」がしたい

“Bean to Bar Chocolate”を始めるよりも前に、思いの中にずっとあったのは「日本ならではのものづくり」だったという山下さん。チョコレートという、欧米で発祥したフィールドで活躍される山下さんから聞く言葉としては、少し意外なようにも思えました。なぜ、「日本ならではのものづくり」が良いと考えていたのでしょうか。

これからのグローバルな市場で日本が勝負できるのは、欧米にはない、日本ならではの美意識を生かしたアプローチだと考えていたんです。特に、和食のように「引き算」という発想で素材の本質を研ぎ澄ましていくものづくりは、日本独自のもの。そうした日本の良さを生かした新しいものづくりをビジネスとして発信し、世界にその価値を問いたい……そんな思いが強くありました。

欧米で生まれ、洗練されていった既存のチョコレートは、主原料であるカカオ豆をベースに油や甘味、ミルクや香料、乳化剤などを足してつくっていく「足し算」の芸術品です。それに対して、日本ならではの「引き算」のアプローチで素材本来の魅力を最大限に引き出したチョコレートを提案してみたら、とても面白いのではないかと。それは、まだどこも実現させていない、全く新しいチョコレートづくりでしたから。

これからのグローバルな市場で日本が勝負できるのは、欧米にはない、日本ならではの美意識を生かしたアプローチだと考えていたんです。特に、和食のように「引き算」という発想で素材の本質を研ぎ澄ましていくものづくりは、日本独自のもの。そうした日本の良さを生かした新しいものづくりをビジネスとして発信し、世界にその価値を問いたい……そんな思いが強くありました。

欧米で生まれ、洗練されていった既存のチョコレートは、主原料であるカカオ豆をベースに油や甘味、ミルクや香料、乳化剤などを足してつくっていく「足し算」の芸術品です。それに対して、日本ならではの「引き算」のアプローチで素材本来の魅力を最大限に引き出したチョコレートを提案してみたら、とても面白いのではないかと。それは、まだどこも実現させていない、全く新しいチョコレートづくりでしたから。

――「日本ならではのものづくり」なのに、日本のものを選ばなかったのは、何か理由があったのでしょうか。

もちろん、初めは国内でいろいろと探してみました。挙げていくときりがないのですが、緑茶、米、日本酒にさまざまな伝統工芸品……実際に生産地まで足を運んで、見に行きましたね。どれも知るほどに面白くて魅力的だったんですが、急いで決めようと思っていたわけではなかったので、とりあえず保留していたんです。“Bean to Bar Chocolate”と運命的な出会いをしていなかったら、今ごろひょっとして、挙げた中のどれかを手掛けていたかもしれません。

「パズルのピースが、
ピタリとはまった」

「日本ならではのものづくり」ということで、最初は日本の伝統的な食文化や、工芸品などを見て回っていたという山下さん。なのに、そんな山下さんの心をつかんだのは、欧米のものであるチョコレート――しかも、“Bean to Bar Chocolate”という新しいジャンルでした。それは一体、どのような出会いだったのでしょうか。

“Bean to Bar Chocolate”のことをあまり知らなかったころには、まだ生まれたての分野で、味へのこだわりよりは「新しくておしゃれ」というイメージしかありませんでした。その認識を見事なまでにひっくり返してくれたのは、偶然の出会いです。

あるとき友人から、コーヒーショップで働きながら独自に“Bean to Bar Chocolate”をつくっているという人を紹介されまして。実はそれが、今うちで製造責任者を任せている朝日(将人さん)だったんです。その時は何とはなしにチョコレートを食べさせてもらったのですが……あの時の衝撃は、今でも忘れられませんね。

“Bean to Bar Chocolate”のことをあまり知らなかったころには、まだ生まれたての分野で、味へのこだわりよりは「新しくておしゃれ」というイメージしかありませんでした。その認識を見事なまでにひっくり返してくれたのは、偶然の出会いです。今思えば、その出会いがターニングポイントでしたね。

あるとき友人から、コーヒーショップで働きながら独自に“Bean to Bar Chocolate”をつくっているという人を紹介されましてね。実はそれが、今うちで製造責任者を任せている朝日(将人さん)だったんです。その時は何とはなしにチョコレートを食べさせてもらったのですが……あの時の衝撃は、今でも忘れられませんね。

――ご一緒に起業されたメンバーのお一人である、現エンジニアリングディレクターの朝日さんですね。朝日さんのチョコレートを食べて感じたのは、どのような衝撃だったのですか。

カカオ豆と砂糖だけの、これ以上ないほどシンプルなチョコレートなのに、まるでオレンジのような風味がしたのです。チョコレートから、オレンジの風味ですよ! さらに驚いたのは、それがそのカカオ豆本来の素材の味わいなのだということ。えっ、カカオって、こんな味や香りがするものなんだ? その時、カカオという食材の多様な個性と味わいの奥深さに心底驚き、そして大きな可能性を感じたのです。

同時に、無駄なものをどんどんそぎ落として、素材そのものの個性豊かな風味を表現したそのチョコレートが、まさに「引き算」で素材の本質を研ぎ澄ましていく「日本ならではのものづくり」だということに気付きました。そして、これはまだどこも発信していない……と。その瞬間に、「あ、探していたのはこれだ」と確信したんです。自分がずっとやってみたかったものを見つけた――まさに、「パズルのピースが、ピタリとはまった」瞬間でした。

――「日本ならではのものづくり」ができることに加えて、まだどこもやっていない、新しい挑戦であるというところも、山下さんの気持ちをつかんだのですね。

そうかもしれません。昔から、新しいことをやったり、提案したりするのが好きでしたから。同じ「ものづくり」ならば、これまでなかった価値を提案したり、アップデートしたりするような、何か新しいものをつくりたい。それが、世界の人たちに楽しんでもらえる、新しい「カルチャー」になったら面白いな。そう、思っていました。 そんな自分の目の前に、新しい食のカルチャーになりうる、日本的な“Bean to Bar Chocolate”が現れたんです。瞬時に、日本のものづくりで世界と勝負する、という壮大なミッションが頭に浮かび、心の底からワクワクしてくる自分がいました。それからはもう、他のものは視界に入らなくなりましたね。


「日本ならではのものづくり」で、世界に新しい価値を提案してみたい……そんな思いを抱き続け、偶然の出会いからその「パズルのピース」を見つけたという山下さん。その山下さんが秘めていた「日本ならではのものづくり」への強い思いは、どこからうまれたのでしょうか。次回は、その源流をライフストーリーからたどってみたいと思います。


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