Plain Note 山下貴嗣さん Page3 / 3

Plain Note ―想いの自由帳―

「Minimal-Bean to Bar Chocolate-」代表
山下貴嗣さん | Page3 / 3
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幼少のころから建築士であった父親の背中を見て、ものづくりへの畏敬の念や憧れを持っていたという山下さん。初めは違う道を選んだものの、いつか「ものづくり」の世界に飛び込みたいという思いは大きく膨らみ続け、「日本ならではのものづくり」を追い求めて出会ったのが「Bean to Bar Chocolate」でした。

全3回の最終ページである今回は、そんな山下さんが大事にされている、枠にとらわれない発想や行動のための考え方をお聞きしてみました。また、これからやっていきたいことを、土屋鞄とも絡めて……。

常に“Slave of Curiosity”
でいたい

――これまで山下さんのお話を聞いていると、核となる確固とした信念を貫かれている一方で、とても柔軟な姿勢をお待ちであることにも驚きます。その姿勢を失わないために、大切にしている思いや考え方はありますか。

そうですね、柔軟さと言えば、大切にしている言葉が2つあります。1つは、「常に“Slave of Curiosity”(好奇心の奴隷)でいたい」というもの。尊敬する知人の言葉です。どういう意味かと言いますと、ちょっとでも心の琴線に触れたものは、どんなものでも好き嫌いに関係なく、ひとまずアクセスしてみよう、ということ。まずは理屈ではなく、自分が心を動かされたこと、面白いと思ったこと、興味をそそられたということを大切にして、受け入れてみようという感じですね。

だから、新しい人や新しい物事に出会ったときには、自分の考えや好みはひとまず脇に置いて、社会的な固定観念や過去の経験にも捉われないようにしています。まずは相手や対象を真っすぐ見つめ、尊重し、積極的に受け入れてみる。そうしていると、心を動かされる面白いもの、興味深い情報が、どんどん入ってくることが分かりました。「気付く」「見えてくる」と言ってもいいかもしれませんね。そうやって多様な価値観を受け入れて相互に理解・共有・触発する意識がより高まってくると、自然と視野が広がり、さらに多様な価値観に触れたくなって……考え方がさらに多面的で、自由になってくるように思います。

――まずは受け入れようという姿勢が大事なんですね。たとえば、どんな時に“Slave of Curiosity”になることが多いですか。

日常生活や普段の仕事の中でもずっとそうですが、出張に行くときなんかは特になりますね。仕事で年に4か月ほど、カカオ豆の生産地を中心にいくつもの国々を巡り歩くのですが、実はいつもそれが楽しくて仕方がないんですよ。ええ、仕事なんですけど(笑) 世界各国の多様な素晴らしいものを知ること、体験することが純粋に好きで。食べ物はその土地のローカルなもの、日常的なものが食べたいし、現地の空気や文化を肌で感じたいんです。“Slave of Curiosity”でいると、旅や出張で外の空気・文化・人々に触れるたびに多様な価値観を自然に知ることができるので、感動と敬意がいっそう深まりますね。

――なるほど。“Slave of Curiosity”になることは、仕事にどう役立っていますか。

実は、チームを構築するうえで大事にしていることにつながっています。「Minimal」はカカオ豆からチョコレートまでの全ての過程を自社で実施するBean to Bar Chocolateなので、ビジネスプロセスが長く、職種の幅がたいへん広い会社です。企画、製造、接客、広告、WEB、渉外……生産地の皆さんも含め、本当に多くの人たちの力があって事業が成り立っています。つまりそれだけ、さまざまな専門性・技術・キャリアを持った人たち、いろいろな見方、考え方を持った人たちが必要になるわけなんです。

自分は常々、「チーム力は掛け算」だと思っています。多様な個の力が集まれば、その掛け算の組み合わせは無限に広がります。そうすると化学反応の幅が広がり、シナジーが高まって、それが会社全体として引き出しの多さ、さらなる視野の広さを生み出すと思うんですね。

ただし、「何でもあり」というわけではありません。会社としての軸となるミッション――目指すもの、共感するところ、ビジョンへの思い――を共有していることが前提です。それは常に一番貴いもので、守るべきもの。Minimalでは、たとえば「こころに遺るものづくり」というテーマを職人チームでは掲げています。この中心核をしっかり共有した上で、多様な個の力を掛け算し、最大値・最適解を見つけていくというのが自分の理想ですね。

「小さな完成品」より
「偉大な未完成品」

まずは自分が感じた好奇心に素直になって、虚心坦懐に物事に向き合い、受け入れてみる。それが、柔軟な考え方への1つのステップとして心掛けていることだという、山下さん。そうやって視野が広がり、考え方がさらに多面的で自由になることで、多様な個の集まるチームづくりに役立っているそうです。お話を聞いて、もう1つの考え方がますます気になってきました。

もう1つの考え方は……「小さくまとまった完成品になるより、“偉大なる未完成品”として挑戦し続けろ」ですね。これは、尊敬する前職の元上司から教わったものなんです。今もとても大事にしている言葉で、社内でもよくスタッフに話しています。

元上司は何かの折に、小さな成功に満足している自分を、しっかり見てくれていたのだと思います。「小さくても、完成品なら点数は高いだろう。でも、それは自分の幅を狭めることになる。小さな自分に満足をするな。大きなビジョン、理想、夢を描いて、そこに向かって挑戦し続けていく。その方が絶対に楽しいはずだ」と言われまして。自分に対して大きな期待を込めながら、叱咤激励してくれたのだと思います。はっと、目が覚めるような思いでした。

以来、その言葉を心に留めて、今でもフィールドを超えたところにある、大きな視点の目標や使命感を大切にしています。「Minimal」を立ち上げる時には、「“日本ならではのものづくり”で、世界に新しい価値を提案する」という、大きな使命感と熱量がありました。全くの門外漢だったチョコレートの世界に飛び込めたのは、やりたいテーマが大きかったために、何をつくるのかという細かなことにこだわらなかったからだと思います。大きなミッションを持つことが物事を俯瞰で見られる大きな視点につながり、結果的に自由な発想、柔軟な姿勢を可能にしてくれたのかもしれません。

――「大行は細瑾(さいきん)を顧みず」ですね。ミッションやビジョンを大きく持つと、小さなことに惑わされず、自由でいながらブレないでいられると。

そうですね。ただし、大きなミッションを実現しようと思っても、一人でできることは限られるので、理想のチームづくりが必要だと思っていました。やりたいことが大きくなるほど、大きなチームが必要です。それも、ただ人数がいれば良いわけではない。「世界に新しい価値を提案する」という壮大なミッションですから、これまでにない発想や考え方ができるチームでないといけません。

多様な個がいて、それが連携し、最大限の力を発揮できる。そんなチームをつくることができて初めて、新しくて大きな仕事ができます。多様な個がいることで互いを補完し合うと同時に、その掛け算が大きな違いを生み出し、一人では見えなかった大きなものが見えてくる。「自分は誰も見たことのない“景色”を見たいんだけど、一人では行けない。だから、一緒に連れて行って欲しい」——そう思っていた自分のもとに集まってくれたのが、今のMinimalのみんなだと思っています。

――あ、そこで“Slave of Curiosity”が繋がって来るんですね!

そうなんです。だから“Slave of Curiosity”と“偉大なる未完成品”は、自分の中ではリンクしている気がしてまして。常に“偉大なる未完成品”の夢を描きながら、それを実現をするチームづくりのために、ずっと“Slave of Curiosity”であり続ける。それが、自分が枠にとらわれずに行動できた理由じゃないかなと、思っています。

これから、
やってみたいこと

大きなビジョンや夢が大きな視点をもたらし、小さなことに惑わされず、広く自由に考えさせてくれる。そして、その大きなビジョンをかなえるために理想のチームづくりが必要となり、そこで“Slave of Curiosity”の姿勢が役立ってくれる――山下さんの2つのお考えが、最終的に繋がっていることにとても驚きました。ものごとと大らかに向かい合う、という点で共通する考えかもしれませんね。

最後に、山下さんが「これからやってみたいと考えていること」を、教えていただきました。

最近、チョコレートと一見、全くつながりがなさそうなブランドを含めて、さまざまなコラボレーションを企画しています。それも単にダブルネームにするようなものではなく、そのブランドの思いや哲学や歴史などを、チョコレートという素材で表現するという試みとしてです。表現の素材として、チョコレートにどれだけの可能性や拡張性があるのか。今は、他のブランドとのコラボを通じてそんなことを考えるのが、面白いです。

たとえば、それまでは不可能だと思われていた技術革新を成し遂げて業界の常識をひっくり返し、衝撃を与えた高級ブランドがあったとします。そのブランドらしさをチョコレートで表現するには、どうするか。「常識破り」をテーマにするのか、「驚き」をテーマにするのか、その技術革新によって快適になったライフスタイルをテーマにするのか。そしてそれを、チョコレートの何を以って表現するのか……味か、香りか、形か、質感か。もちろん、パッケージやネーミングなども含めて、トータルで考えるんです。チョコレートとイメージがかけ離れているブランドの方が、面白いこともありますね。

――面白そうな試みですね。それでは、また土屋鞄とコラボしていただける可能性も?

ええ、もちろん。もともと土屋鞄は、minimalにとっては憧れのブランドなんです。まず、「ものづくり」という基本的なミッションに共通の思いとこだわりがあって。自分たちが目指そうとしているライフスタイルに近いところを、ずっと前から提案していますよね。だから、今年のバレンタインデー企画で土屋鞄さんに声をかけていただけたのは、嬉しかったです。

――ありがとうございます。

そうですね、もう一度、土屋鞄とコラボができるとしたら……今、他のところともやっているように、土屋鞄のフィロソフィーやDNAを深く理解した上で、土屋鞄らしさを表現するチョコレートを考えてみたいですね。「THE 土屋鞄」という感じの。どんなチョコレートをつくったら、「土屋鞄」を表現できるんだろう? ちょっと考えてみようとするだけで、わくわくしてきます。ぜひ、オファーして欲しいですね(笑)

――長時間のインタビューにお応えいただき、本当にありがとうございました。私たちも、また一緒に面白いことがしたいです。よろしくお願いいたします。

こちらこそ! またいつの日か、土屋鞄と一緒に面白いことができたら嬉しいです。


今回、「Minimal -Bean to Bar Chocolate」
山下さんからいただいた、
「枠にとらわれない生き方のための言葉」は……

「偉大なる未完成品」を目指して
“Slave of Curiosity”でいる。