VOL.5
「書道の時間」
心が満たされるまで、自分の好きなことをしながら過ごす。
そんな、ささやかだけど贅沢な気持ちになれる時間を、
個性派ぞろいの土屋鞄スタッフに尋ねてみました。
皆さまは、「贅沢な時間」をどのように楽しまれていますか。
今回は、スタッフ・石田の「書道の時間」をご紹介します。
VOL.5
「書道の時間」
心が満たされるまで、自分の好きなことをしながら過ごす。そんな、ささやかだけど贅沢な気持ちになれる時間を、個性派ぞろいの土屋鞄スタッフに尋ねてみました。皆さまは、「贅沢な時間」をどのように楽しまれていますか。
今回は、スタッフ・石田の「書道の時間」をご紹介します。
習字を始めたのは小学生のとき。当時教わっていた先生は褒めるのがとても上手で、きれいに書けると「大天才!」と言いながら◎をたくさんくれる方だった。褒めてもらえると、照れくささと嬉しさが込み上げてきて。
もっと技術を磨いて知識を深めたいと思い、高校では書道部に所属。大学も、書道のある学部を専攻した。社会人になってからは、休日に楽しみながら、気ままに書いている。友人のお子さんの命名書など、贈りものやお礼状に書くことが多いかな。
いつも最初にするのは「墨を磨(す)る」こと。この時間がたまらなく好き。墨と硯(すずり)が擦れ合う、すうすうと響く優しい音。ふわりと鼻をくすぐる、墨の香り。静けさの中、程よい緊張感と深まる集中力に、自然と背筋がすっと伸びる。
墨は墨汁にはない味わいがある。手で磨ることで、硯に加わる圧力や墨が磨れる早さにムラが生じ、さまざまな大きさの粒子ができる。それを筆に含ませて文字を書くと、独特の筆致が生まれる。均一に近い墨汁よりも濃淡や筆跡の強弱がつけられるので、書く人の個性が出やすいのだ。
書道では昔から、力を入れずに墨と硯の接触感を楽しみながら磨るのが良いとされている。私はどっしりとした濃い文字が好きなので、じっくりと時間をかけて墨を磨ることが多い。さらさらとした水が、徐々にとろみのある墨に変化して。ふっと香り立つ墨が、私の気持ちを落ち着かせてくれる。
いつも最初にするのは「墨を磨(す)る」こと。この時間がたまらなく好き。墨と硯(すずり)が擦れ合う、すうすうと響く優しい音。ふわりと鼻をくすぐる、墨の香り。静けさの中、程よい緊張感と深まる集中力に、自然と背筋がすっと伸びる。
墨は墨汁にはない味わいがある。手で磨ることで、硯に加わる圧力や墨が磨れる早さにムラが生じ、さまざまな大きさの粒子ができる。それを筆に含ませて文字を書くと、独特の筆致が生まれる。均一に近い墨汁よりも濃淡や筆跡の強弱がつけられるので、書く人の個性が出やすいのだ。
書道では昔から、力を入れずに墨と硯の接触感を楽しみながら磨るのが良いとされている。私はどっしりとした濃い文字が好きなので、じっくりと時間をかけて墨を磨ることが多い。さらさらとした水が、徐々にとろみのある墨に変化して。ふっと香り立つ墨が、私の気持ちを落ち着かせてくれる。
書体は専門の字典から選んで決めている。学生のころに使った教科書や、神保町にある行きつけのお店で購入したもの。お気に入りの字典は一つの文字がたくさんの書体で書かれていて、ずっと見ていても飽きないほど面白い。
書く文字はこれだから、使う書体はこれが合うかな。こっちの書体も雰囲気が良くて素敵だな。そんな思いを巡らせながらページをめくって、そのとき抱いた気持ちにぴったりとはまる書体を見つけ出す。
書体は専門の字典から選んで決めている。学生のころに使った教科書や、神保町にある行きつけのお店で購入したもの。お気に入りの字典は一つの文字がたくさんの書体で書かれていて、ずっと見ていても飽きないほど面白い。
書く文字はこれだから、使う書体はこれが合うかな。こっちの書体も雰囲気が良くて素敵だな。そんな思いを巡らせながらページをめくって、そのとき抱いた気持ちにぴったりとはまる書体を見つけ出す。
今回書くのは、「花紅柳緑(かこうりゅうりょく)」。これは、美しい景色の様子を表現したもの。新緑のみずみずしさや鮮やかに彩る花が思い浮かび、今の季節にぴったりだと思ってこの言葉を選んだ。
筆巻きを広げると、手になじんだ筆たちが並ぶ。背の低いもの、高いもの。長い時間をかけて墨が染み込んだもの、のりが落ちていない新顔のもの。お気に入りの筆たちを見ると、それだけで自然と気分が上がる。私が持っている筆は、羊、タヌキ、マングースの毛を使ったもの。それぞれ硬さが違っていて、言葉の雰囲気に合わせて種類を選んでいる。
「花紅柳緑」の自然豊かな情景を想って選んだのは、羊毛の筆。お気に入りの柔らかく繊細な筆致で、私なりの書を表現したい。
今回書くのは、「花紅柳緑(かこうりゅうりょく)」。これは、美しい景色の様子を表現したもの。新緑のみずみずしさや鮮やかに彩る花が思い浮かび、今の季節にぴったりだと思ってこの言葉を選んだ。
筆巻きを広げると、手になじんだ筆たちが並ぶ。背の低いもの、高いもの。長い時間をかけて墨が染み込んだもの、のりが落ちていない新顔のもの。お気に入りの筆たちを見ると、それだけで自然と気分が上がる。私が持っている筆は、羊、タヌキ、マングースの毛を使ったもの。それぞれ硬さが違っていて、言葉の雰囲気に合わせて種類を選んでいる。
「花紅柳緑」の自然豊かな情景を想って選んだのは、羊毛の筆。お気に入りの柔らかく繊細な筆致で、私なりの書を表現したい。
頭の中でイメージした文字を、なぞるようにして筆を運ぶ。とめ、はね、はらい・・・基本の線を意識しながら、次の一筆に繋がる流れも想像して。
書いているときは基本的な筆運びは考えても、気持ちの上では何も考えない。たとえ途中で失敗したと思っても、まずは最後まで書き終える。これは学生の頃にお世話になった、先生の大切な教え。失敗作になるかもしれないけれど、次の作品に繋がる発見や気付きがあるかもしれない。だから気持ちを途切れさせずに、最後の一筆まで書き上げる。
繰り返し同じ言葉を書いていると、筆先や筆の腹全体が思い通りに扱えるようになってくる。そうなると、自分の中で自然とリズムが生まれてきて。筆と指先が一本の線で繋がったような感覚になって、半紙の中を自由に動き回れるような、そんな気持ち良さを感じられる。
繰り返し同じ言葉を書いていると、筆先や筆の腹全体が思い通りに扱えるようになってくる。そうなると、自分の中で自然とリズムが生まれてきて。筆と指先が一本の線で繋がったような感覚になって、半紙の中を自由に動き回れるような、そんな気持ち良さを感じられる。
書き上げたら、最後に落款印(らっかんいん)を押して。ここでようやく緊張から解放されて、出来上がったなあとしみじみできる。
書き上げたら、最後に落款印(らっかんいん)を押して。ここでようやく緊張から解放されて、出来上がったなあとしみじみできる。
私にとって書道に向き合っている時間は、普段の生活から離れた異世界にエスケープしているような感覚。墨の香りに癒されながら、何時間もずっと同じ言葉を書き続けていると、運動した後の爽快感に似た心地良さを味わえる。社会人になってからは、自分の中でも特別大切な時間になっているのかも。
以前の私は、教書を手本として技術をひたすら磨いていた。その頃は、うまく書けたと思っても、あの線をこうすれば・・・となかなか満足することはなくて。でも、書道には一つとして同じ形がないのが魅力。だから今は、伝えたい人や伝えたいことに合うような言葉を、自分らしく書きたいという気持ちに変化してきた。これからは、今の私をつくっているその時どきの思いや感情を、筆を通して自由に表現できたら。そんな思いを胸に筆を持っている。
私にとって書道に向き合っている時間は、普段の生活から離れた異世界にエスケープしているような感覚。墨の香りに癒されながら、何時間もずっと同じ言葉を書き続けていると、運動した後の爽快感に似た心地良さを味わえる。社会人になってからは、自分の中でも特別大切な時間になっているのかも。
以前の私は、教書を手本として技術をひたすら磨いていた。その頃は、うまく書けたと思っても、あの線をこうすれば・・・となかなか満足することはなくて。でも、書道には一つとして同じ形がないのが魅力。だから今は、伝えたい人や伝えたいことに合うような言葉を、自分らしく書きたいという気持ちに変化してきた。これからは、今の私をつくっているその時どきの思いや感情を、筆を通して自由に表現できたら。そんな思いを胸に筆を持っている。