眼差しの先にあるもの - 01.玉川勲-

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CRAFTSPEOPLE

眼差しの先にあるもの

80代のベテランから20代の若手まで、個性豊かな土屋鞄の職人。
それぞれ、どんな思いで鞄と向き合っているのでしょう。

2002年、30歳で土屋鞄の鞄職人として歩み始めた玉川。ランドセル、修理、そして大人の方に向けた鞄と、幅広い経験を積んだ職人のひとりです。2015年に発売した「OTONA RANDSEL」はサンプル制作から手がけ、現在は製造リーダーを務めています。仲間からの信頼も厚い、その仕事との向き合い方について聞きました。

2002年、30歳で土屋鞄の鞄職人として歩み始めた玉川。ランドセル、修理、そして大人の方に向けた鞄と、幅広い経験を積んだ職人のひとりです。2015年に発売した「OTONA RANDSEL」はサンプル制作から手がけ、現在は製造リーダーを務めています。仲間からの信頼も厚い、その仕事との向き合い方について聞きました。


妥協はしない。
クオリティーを保ちながら、
丁寧な仕事を。


職人って、手先が速いタイプと丁寧なタイプがいるんですが、僕は丁寧だと周りから言われます。もともと服のデザインを志していたこともあって、一点物や芸術品をつくることに興味があるからかもしれない。普段からきれいなものをつくりたいという想いが強いですね。だから自ずと丁寧になるんだと思う。

凝ろうと思えば、どこまでも凝れるんです。時間も無限なら、いくらでもかけたい。でも、僕らがつくっているのは日常生活で使っていただく鞄です。こだわりすぎて必要以上に時間がかかっては価格が上がってしまうし、お客さまにちゃんとお届けできません。ある程度のスピードや効率も考えつつ、最大限に丁寧を心がける。クオリティーとのバランスを見ながら仕事をしています。


なかでも大事に、時間をかけているのは下仕事。革鞄用の特殊なのりを塗って、ミシンで縫い合わせるパーツを仮止めします。職人といえばミシンが花形のように見えますよね。もちろんミシンは難しいし、きれいにかけるコツを掴むには時間もかかる。ただ、極論を言えば、ミシンは定規をあててかければ機械がやってくれます。でも、下仕事は僕たちの手にかかっている。しかもミシンをかけるときに、どれだけきっちり定規をあてても、下仕事できれいに貼り合わせていなかったらだめ。最終的な仕上がりが変わってくるんです。


のりを塗るって、地味な作業のようで難しいんですよ。職人になりたての頃を振り返っても、印象に残っているのはのりの行程。普通ののりとは違って、基本は歯ブラシのような刷毛にとり、少しずつ塗っていきます。しかも、片側だけじゃなく接着するほうにも塗って、半乾きになってから貼り合わせる。塗り方を間違えると必要以上に広がってしまうし、慣れないうちはつけなくていいところについたり・・・。ゆっくり慎重に、一つひとつ塗ったのを覚えています。

今、製造リーダーをしている「OTONA RANDSEL」も、のりには神経を使いますね。ランドセルの場合、のりで仮止めした上からパイピング状に革をかぶせてミシンがけするけど、「OTONA RANDSEL」はコバが見えた状態で縫い合わせます。コバにのりがついたらきれいに仕上がらないし、やり直しがききません。だからコバ面にはみ出さないよう、ヘラを使って切るように塗っていきます。


先を考えて仕事をすることは、
仲間への思いやりでもある。


仕事中、考えていることは、どうしたら職人みんながよりスムーズに仕事ができるかということ。これは鞄職人になった15年前から、変わらず頭の中にありますね。

創業者の土屋や先輩職人から、「次の流れを考えて仕事をしなさい」と、常々言われてきたんです。最初の頃は、自分がやる次の仕事を考えて動いていました。少しずつできる仕事が増えてきたら、次の次の仕事っていうふうに、どんどん先を読んでいく。これをやったらどの工程に進むから、それに必要なパーツを用意しておくとか、作業スペースをつくっておくとか。

僕が接する若手職人たちにも、同じように伝えています。先のことが考えられるようになると、一緒に仕事している職人のことも考えられるようになる。複数の職人で協力してひとつの鞄を仕上げていくから、そういう思いやりみたいなものは大切ですね。


仕事を始める前に、まず道具の手入れをすることも、最初の頃に先輩を見て学びました。今ではめっきり出番が少なくなったけど、革切り包丁を使う日は朝いちばんに砥ぎます。僕は砥ぐのが苦手で、時間がかかるというのもあるんですけど(笑)、使う直前に砥いでいては仕事が止まってしまう。事前に状況を整えておくことも、次の流れを考えて仕事をすること。ひいては仲間に負担をかけないことにつながると思います。


デザイン性とつくりのよさを両立した鞄を、
これからも。


僕はランドセル職人に始まり、修理、そして大人の方に向けた鞄と、さまざまな職人としての経験を積ませてもらってきた。そのぶん、より広い視野で鞄のことを考えられていると思います。とくに、修理を担当して学ぶことがありましたね。大きかったのは、デザイナーと職人の間にあるギャップを埋める方法。

僕らはランドセルから始まったメーカーで、大人の方に向けた鞄をつくり出したのはここ10数年です。ランドセルとはつくりが違うものも多いですし、お客さまにちゃんと届けたいから、社外の鞄職人さんとも協力してつくっていて。僕も職人だからひと通りわかっていたつもりだったけど、いざ修理となって鞄を解体したら、初めて知ることもありました。糸の留め方、芯材の使い方や選び方なども学びましたね。


街でうちの鞄を使ってくださっているお客さまを見ると、「おっ!」と目に飛び込んで、気になります。どんな感じかな、使い心地は大丈夫かなって。実はまだ、残念なことに「OTONA RANDSEL」を使っている方には遭遇したことがないんです。少しずつ、世に送り出した数も増えてきているから、そろそろかなとは思っているんですが・・・。実際に見かけたら、こみ上げるものがありそうですね。


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