2025.9.26
【徒然革】
革を語るメルマガ:
最も育てがいがある?!
“ナチュラル仕上げ”の魅力を解説
日常生活の役に立たない、
マニアックな革のうんちく知識を
気ままにつぶやくメルマガ
「徒然革(つれづれがわ)」
つれづれなるままに日暮らし、
PCに向かひて、
心にうつりゆく革のよしなしごとを
そこはかとなく書きつくれば、
あやしうこそ革狂ほしけれ——
かつて「副店長」の肩書で、数々のマニアックな革のうんちくコラムを担当した古参スタッフが、日常生活の役に立たない、知るだけムダな革や鞄の小ネタを気まぐれにお届けします。
今回の革メルマガでは、9月10日(水)に発売された「SHINYAKOZUKA(ISSUE#7)」コラボ製品にも採用されている「プレーンヌメレザー」を詳しくご紹介。まさに“すっぴんヌメ革”と呼ぶにふさわしい、最もナチュラルな仕上げの革の魅力を解説します。
残暑を吹き飛ばす、爽やかなハイボール(ベースはJAPANウイスキー)で秋の涼気を待ちながら、ゆるりとご笑覧ください。
ベルギーが誇る、名門タンナーの出身
TSUCHIYA KABANの「プレーンヌメ」シリーズや、9月10日(水)に発売された「SHINYAKOZUKA(ISSUE#7)」コレクションのコラボアイテムに採用されている「プレーンヌメレザー」は、1873年創設の老舗タンナー Tannerie Masure(マズール)社の謹製。
フランスとの国境近くの町、ベルギー・エステンブルグに居を構えるMasure社は、伝統的手法と新しい技術を併用し、エコロジーに沿った最高級の革を生産。創業当時から高級ブランドに革を提供している欧州屈指のタンナーの1つです。
植物タンニン100%での鞣しを2回も
原皮に使用しているのは、去勢していない雄の成牛から採れるブルハイドの、しかもダブルバット。背中で分割せずつながったままの、背中から尻までの皮です。最も体の大きな雄牛のダブルバットですから、一枚が上の画像のようなビッグサイズ。去勢していない雄牛の原皮は物凄く分厚いため、重さはまさしくヘビー級です。
「プレーンヌメレザー」を仕立てるには、このダブルバットのブルハイドを植物タンニンだけを使ってじっくり鞣すのですが、1回の鞣しではタンニンが芯までしっかり入りこまないため、再鞣しを行わないといけません。そのあと、しなやかさを出すため加脂をし、自然乾燥させて「完成」です。
この革は、通常であればこの後に施される染色や加工などを全くしていない、鞣しただけの状態(「クラスト」と呼びます)。つまり、まさしく“すっぴん”状態のヌメ革というわけなんですね。
染色していない“すっぴん”のヌメ革
染色などの仕上げを施さずに完成する「プレーンヌメレザー」ですが、だからと言って簡単にできる革ではありません。“すっぴん”状態のまま製品に使える革をつくるには高いクオリティが必要であり、相応の手間暇が必要になります。
まず大変だと思われるのが、原皮の選定。本来変化に富む自然の原皮を鞣して、これほど白く、傷やシワのないプレーンな表情のヌメ革となるのはごく一部しかありません。それは、きれいな肌目と程よい堅さがある繊維の詰まった品質の良い原皮を厳選した上で、ダブルバットという全身の中で最も革質の安定した部位だけを用いているからでしょう。
そうして選りに選り抜かれた原皮を、それぞれの状態に合わせながら一枚一枚丁寧に鞣し、仕上げることで、きれいな肌目のフラットな品のある革に仕上がります。原皮から完成までの間に100以上の生産工程を要し、かかる時間が実に5週間。素朴に見えて、時間も手間も恐ろしくかかった革なのです。
じっくり育てて、自分だけの飴色に
左が嶋谷の愛用品(愛用歴6年)
さて、そんなナチュラルすぎる“すっぴんヌメ革”ときて、我々革好きが真っ先に気になるのはやはりエイジング。そこで今回、土屋鞄スタッフ2人に愛用品を見せてもらいました。
まずは、革メルでもおなじみ「土屋鞄のお手入れマスター」こと、スタッフ・嶋谷の愛用品「プレーンヌメ Lファスナー」。8/13(水)のメルマガでもちらっとご紹介したのでご覧の方も多いと思いますが、まさに飴色へまっしぐら状態ですね。
本人曰く、日焼けさせたり、ドライヤーで温めてゆるくしたミンクオイルを塗ったり、いろいろ工夫していたとのこと。カードのアタリもたまりませんね。愛とこだわりを感じさせるエイジングっぷりです。
左がスタッフMの愛用品(愛用歴2年)
もう一つは、女性スタッフMの「プレーンヌメ ミニショルダー」。1回しかオイルケア(「コロニル シュプリームクリームデラックス」を使用)していないし、特別な時にしか使っていないのであまりエイジングしていないかも……と申しておりましたが、なかなかどうして、良い色とつやが出てきているじゃありませんか。大事に使われてきたことが分かる、きれいなエイジングですね。
本人曰く、ちょっぴり水シミをつくってしまったそうですが、エイジングにつれて目立ちにくくなってきたとのこと。さらにエイジングが進めば、多少の小傷もむしろ“景色”として味わいになるはずです。
ちなみに、二人に聞いた話で共通しているのは、エイジングし始めるのは早いけど、そこから色が深くなり始めるまでには時間がかかる、ということ。逆に言うと、エイジングをじっくりと長く楽しめるということで、育て甲斐がある革というわけですね。
“すっぴんヌメ革”に
プリントがどうなじむのかが見モノ
さて、他にこの「プレーンヌメレザー」が採用されているのが、9月10日(水)に発売された「SHINYAKOZUKA(ISSUE#7)」コレクションの「カプチーノ」色。このコレクションでは、「プレーンヌメレザー」を裏表貼り合わせて使ったりと見た目以上に贅沢な仕立てになっています。
また、革にシルクスクリーンでプリントを施しているので、そのプリントがエイジングになじんでいくという、「プレーンヌメ」シリーズにはない変化を愉しめる魅力も。全体が飴色になったときには、さぞかし見事な佇まいになりそうですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。今回の「プレーンヌメレザー」特集、いかがでしたか? この革は土屋鞄史上でも最も“すっぴん”な仕上げの革ですので、初めて取り扱うことになったときは、皆でワクワクしたことを覚えています。
ちなみに弊社の職人曰く、つくり手としてはこれほど気を遣う素材はないそうで(苦笑) 少しでも日光に当たると色が付くので、保管も作業も明るい場所ではできないとか、かすかな水分や油脂でシミができるので、手袋・マスク着用はもちろん、ミシンなどの機械類を使う際にも油跳ねなどしないよう細心の注意が必要だとか……それでも「これでつくりたい」と思わせる革だというのですから、罪な素材ですよね。
といったところで、次号の「徒然革」は、また届いてのお楽しみに。それでは、またお会いしましょう。とっぺんぱらりの、ぷう。
Plain-nume 楽しみ方研究会<前/後編>
真っ白の紙のような、“素のままの革”で仕立てた「プレーンヌメレザー」をとことん楽しみたい。そんな土屋鞄スタッフ3人が集って、それぞれの使い方やエイジングのさせ方について自由に語り合い、互いのアイテムを比べ合って楽しみました。






